デジタルコンテンツ流通とP2P

大野 勝利(アライド・ブレインズ)

ブロードバンドネットワークのキラーアプリケーションとしてのデジタルコンテンツ

インターネットが一般家庭に普及し、WWW用語集へを通じて一般の利用者が多様な情報を楽しんだり、電子メールによって他人とコミュニケーションを図ることが一般的になってきた。そして最近ではADSL用語集へFTTH用語集へといった高速通信技術が一般家庭でも利用できるようになりつつあり、ブロードバンドによるインターネット利用が当たり前になりつつある。このブロードバンド回線を導入することにより、利用者は大量のデータを短時間にやりとりすることが可能であり、またこれらブロードバンド回線は常時接続のため、通信コストを意識せずネットワークを利用することができる。

一方、インターネットへのアクセスを提供する通信事業者やISP用語集へにとってはブロードバンド化に伴う投資額が増大する一方、アクセスサービス自体は定額・低額のサービスであるため、アクセスサービス単体では大きな収益をあげることが難しくなってきている。一般的に企業が収益を拡大するためには売上高の拡大あるいは利益率の向上が必要となるが、利用者がインターネットにアクセスするためには基本的に1本のネットワークを導入すれば十分であり、一人で複数のネットワークを導入することが期待しにくいために導入回線数の増大による売上高の拡大が期待しにくい。(有線と無線をそれぞれ導入するパターンは期待できるが)またサービス事業者間の価格引き下げ競争が激しいことから、利益率の向上も難しい状況にある。このため、サービス事業者としてはネットワークインフラ提供以外の面で収益源を見いだしていく必要が高まってきている。

サービス事業者が考えられる収益源として、ネットワークを通じて提供されるデジタルデータ自体を有償の商品として利用者に提供することがあげられる。インターネットアクセスと異なり、デジタルデータは一人の利用者が複数利用することが期待できる上、すでにレンタルビデオやCS用語集へ放送のペイパービューなど、コンテンツの種類によっては一人の利用者が比較的高額なコンテンツを毎月何本も購入することが一般的になりつつあることから、単なるネットワークインフラ提供よりも幅広い事業機会が期待できる。

ただしブロードバンドの特性である広帯域をフルに使い、大量のデータを長時間送る必要のあるコンテンツは限定される。このため、どのようなデジタルデータを利用者に提供していくかが重要な課題となってくる。収益の期待できるコンテンツとして、ストーリー性を持つ映像(映画、ニュースなど)や音楽などのエンターテインメントコンテンツが有望である。これらコンテンツはレンタルビデオやCDレンタル、あるいはCS等のペイチャンネルなどを通じてコンテンツにお金を払うことが定着しているため、ブロードバンドによる有償提供にも比較的スムーズに移行できると考えられる。一方それら以外のコンテンツではまだまだ幅広い利用者からお金を支払ってもらうだけのインパクトが不足しており、ブロードバンド回線を直接収益に結びつけることが難しい。

このような状況を踏まえ、すでに多数のサービス事業者やコンテンツフォルダなど多様な事業者が、映像や音楽コンテンツ流通を目的としたビジネスの実用化を目指して多様な取り組みを手がけ始めている。

P2Pによるインフォーマルなコンテンツ流通

インターネットを利用したコンテンツ配信のひとつの形として、P2P(ピア・ツー・ピア)ファイル交換と呼ばれる技術がある。一般的なコンテンツ配信では事業者等が管理するサーバーからそれぞれの利用者がファイルのダウンロードをおこなうのに対し、P2Pではデジタルコンテンツを一元的に蓄積するサーバーを持たず、利用者同士が自分のパソコン上に保管されたデジタルコンテンツをダイレクトに交換しあうことができる。

有名なP2Pファイル交換ツールとして、ナップスターやグヌーテラがある。ナップスターでは利用者のパソコンに保管されているコンテンツのリストを運営会社のサーバー側で管理することにより、利用者がほしいコンテンツをサーバー上で検索し、保管している相手を見つけてダウンロードすることができる。一方グヌーテラではそれぞれのパソコンがファイル保管と同時にファイル検索のためのサーバー機能を持ち、隣接したパソコンが持つファイルリストを他のパソコンに提供することによってほしいファイルを見つけられるようになっている。

このようなP2Pファイル交換ツールは大学生等を中心に急速に普及し、利用者は自分が持っているデジタルコンテンツを他人に無償で提供したり、逆に他人の持っているデジタルコンテンツを無償で手に入れることが可能となった。その中でも特にMP3用語集へ形式の音楽ファイル交換の人気が高く、最新ヒット曲のダウンロードが社会問題に発展していった。つまりP2Pで交換される音楽ファイルは著作権者の許可を得ずに不正に流通したものであり、その結果最新ヒット曲CDの販売悪化を引き起こす原因になっていると指摘されている。

このようにP2Pによるコンテンツ流通では著作権法違反のコンテンツ流通が主となってしまったため、例えばナップスターは著作権者による訴訟によりサービス停止に追い込まれることとなった。

ただし一つのサービスが停止しても別のサービスが新たに出現してくるため、デジタルコンテンツをビジネスの収益源とする事業者にとっては、P2Pファイル交換による著作物の不正流通をいかに抑止するかが重要な経営課題となってきている。

現在のコンテンツ流通手法の限界

現在のデジタルコンテンツ流通の特徴として、デジタルコンテンツそれ自体と再生手段が分離していることがあげられる。例えば音楽ファイルではmp3形式やwave形式(CDの中に記録されているフォーマット)などがあり、また映像ファイルではMPEG用語集へ形式、リアルプレイヤー形式、Windows Media Player形式などがある。また再生手段はほとんどの場合無料で入手できるため、利用者にとって価値のあるコンテンツが一度ネットワーク上に流れてしまうと、P2Pファイル交換によって非正規な形で二次流通・利用されてしまうおそれが大きい。

例えば著作権を持つ事業者がデジタルコンテンツを有償で利用者にオンライン提供する場合でも、一部の利用者が有償でダウンロード(あるいはストリーミング)したコンテンツをP2Pファイル交換ツールに登録してしまうと、多数のお金を払っていない利用者がコンテンツを利用することができてしまう。このことにより、サービス事業者は本来得られるべき収入を得られなくなり、結果として期待した売り上げを上げられなくなってしまう。もちろんこのようなP2Pでのコンテンツ流通は著作権法違反であり、摘発される行為だが、P2Pファイル交換への参加者は非常に多数であること、また利用者は営利を目的としてファイル交換をおこなうのではなくボランティア・反権力的な意識でコンテンツ流通をおこなう場合も多いため、違反者の摘発や法的な強制によるP2Pファイル交換の抑止は大変難しい。

つまりデジタルコンテンツの不正流通を防ぐためには、著作権法に基づく不正利用者の摘発だけでは不可能であり、原理的にデジタルコンテンツの不正流通をできなくする仕組みの実現が必要となってくる。

デジタルコンテンツのオブジェクト化の必要性

法的な手段でデジタルコンテンツのP2P流通を根絶することは非常に困難でコスト的にもペイしないおそれが大きいことから、技術的な手段でコンテンツ流通を抑止することが必要となる。これを実現するために現在考えられている技術として、電子すかしがある。

この電子すかしではデジタルコンテンツに著作権者の印をデジタル記号として付けることにより、不正にコンテンツが流通した場合にそれを容易に検知できるようにすることを目的としている。ただしこの方法では流通している膨大なコンテンツの中から自分の著作権を侵害している不正流通コンテンツを事業者自身が探し出すことが必要であり、膨大な労力が必要となる。このため、結局不正なコンテンツ流通のごく一部を摘発するだけにとどまり、P2Pファイル交換による不正利用を完全になくすことはできない。

電子すかし以外にデジタルコンテンツの不正流通を防止する方法として、コンテンツ再生とコンテンツ自身を一体化して流通させる、デジタルコンテンツのオブジェクト化が考えられる。このオブジェクト化では、デジタルコンテンツと再生ソフトを別々に利用者に提供するのではなく、再生ソフトとコンテンツを一つにパッケージ化された「オブジェクト」として提供する。このオブジェクト化されたデジタルコンテンツの中から再生ソフトをのぞくコンテンツ単体を切り出すことはできず、常に両者が一体化して流通することとなる。

このため、例えばデジタルコンテンツを購入した利用者がそれをP2Pファイル交換ツールに登録する場合でも、再生ソフトとコンテンツが一つのまとまりとして他の利用者にダウンロードされることとなる。

単に再生ソフトとコンテンツを一体化するだけではデジタルコンテンツの不正流通防止に対する効果はあまりないが、例えばオブジェクト化された再生ソフトに正規流通時のIDや受信端末のアドレス等を組み込み、暗号化しておくことにより、不正に入手した利用者がコンテンツを再生する事を不可能にするなどの加工が可能となる。このため、P2Pファイル交換によるコンテンツの不正流通環境が広まっても、著作権者の権利を守りコンテンツをビジネスとして活用することができる。

さらに、オブジェクト化された再生ソフトのなかに、正規の認証がなくても低解像度で再生したり、さわりの部分だけ再生できるような機能を付けておくことにより、不正に入手した利用者に対してもコンテンツに対する渇望感を高めたりすることが可能となる。また併せて再生ソフトの機能の一環として通信機能を持たせ、コンテンツの利用希望者がブロードバンドを通じて正規の利用IDを簡単に有償で入手できるようにすることにより、現在ではデジタルコンテンツビジネスの敵と考えられているP2Pファイル交換を、非常に効果的な販売促進チャネルとして活用することも期待できる。

またオブジェクト化によるもう一つのメリットとして、コンテンツと再生機能が一体化していることにより受信側のソフトウエアに制約を受けることなく、幅広い利用者が特段の準備なしにコンテンツを再生できるようになることもあげられる。

ブロードバンドの普及に伴うP2Pファイル交換の広がりは避けられない方向であり、デジタルコンテンツをビジネスとする事業者にとってはP2Pファイル交換を否定した事業形態は将来性を期待できない。

このためにもサービス事業者は早急にデジタルコンテンツのオブジェクト化手法を具体化し、ビジネスとして実用化していくことが必要となるだろう。