CtoC型ネットオークションの現状と問題点の分析
安藤 昌也(アライド・ブレインズ)
1. はじめに
インターネットを通じて競り売り形式で売買が行われるネットオークションは、日本においても急速に利用が拡大し始めており、その取扱高は1800億円と推定されている。特に最近では、売り手・買い手ともに個人であるCtoC型のネットオークションに人気が集中し、利用者・取扱商品、取引高ともに急激に増加している。
一方で、代金の決済や商品の引渡しの遅延、詐欺事件等のトラブルも次第に増加しており、何らかの対策が求められている。しかし、ネットオークションは既存の商習慣にとらわれない、新しい形態であるため通常の電子商取引(Electronic commerce:EC)と比べ、法整備や業界関係者の自主的なガイドラインなどの環境整備が遅れている。
本稿では、財団法人マルチメディア振興センター(FMMC)の委託を受けて実施した「ネットオークションの利用に関する調査」[1] を基に、CtoC型のネットオークションの現状と問題点の分析を行い、環境整備に向けた問題解決の方向性を検討する。
2. ネットオークションの分類
ネットオークションの形態は、サイト運営者、売り手、買い手の違いに注目すると、表1で示すように大きく3形態に分類できる。このうち、「CtoC型オークション」と「BtoC型オークション・サイト仲介型」は、売り手とサイト運営者が異なる主体であり、サイト運営者は直接商取引には関与しない。特にCtoC型では、個人間取引が原則である点が、通常のECサイトが、販売手法の一つとしてオークションを行う、「BtoC型オークション・自営型」とは異なる点である。
分類 | CtoC型オークション | BtoC型オークション | |
---|---|---|---|
サイト仲介型 | 自営型 | ||
サイト運営者 | 独立サイト (情報仲介のみ) |
独立サイト (情報仲介のみ) |
自営サイト (売り手と同じ) |
売り手 | 個人 | 法人 (営業目的) |
法人 (営業目的) (サイト運営者) |
買い手 | 個人/法人 | 個人/法人 | 個人/法人 |
3. ネットオークションのトラブルの現状
警視庁のハイテク犯罪センターによると、ネットオークションに関する被害相談は、次第に増加しており、2000年5月末時点で約170件に上っている。そのうち110件は詐欺被害である。
特徴的なのは、同一の容疑者と思われる詐欺被害が相次いでいる点である。詐欺の手口は落札者が入金後、商品を発送しないという典型的なものが多く、一人あたりの被害額は数万円〜十数万円程度であるケースが多い。しかし、最近起こった詐欺事件[2] では、90名近い被害者を出し、総被害額は300万円にも上る大規模なケースも発生している。
また、落札したブランド品がにせものであったり、パソコンなどの場合は故障していたりするトラブルも多発しているが、個人間取引であるため商品の品質を事前に証明する手段がなく、金銭を伴うトラブルよりも解決に苦慮するケースが多い。
FMMCのアンケート調査では、実際にトラブルに遭遇した経験のあるネットオークション利用者は、入札者の立場では約5%(N=3827)であった。
被害者の多くは、ネットに慣れていない初心者が多く、そのほとんどは、取引相手を十分に確認しないまま相手を信用して入金するなど、基本的な自衛策が取られていない。アンケート結果からも、初心者ほど自衛に関する意識が低いことが明らかになった。
4. ネットオークションの構造的な問題
トラブル多発の背景には、以下のようなCtoC型ネットオークションの構造的な問題がある。
- サイト運営者側は取引の仲介を行う「場」を提供することに徹し、個人間の取引には直接関与しない。そのため、深刻なトラブルが起こりやすい、商品の配送や代金の支払いに関して、サイト運営者側は一切責任を負わない。
- 個人間取引には消費者保護の関連制度は適応されないため、制度上はトラブルの受け皿がない。トラブルに遭った利用者は、サイト運営者に頼ることもできず、相談窓口もないのが現状である。トラブルの解決は自力で行うか、泣き寝入りするケースが大半である。
- サイト運営に関する法的な枠組みが明確でない。ネットオークションでは、サイト運営者は販売行為を行っておらず、単に取引情報を仲介しているに過ぎない。だが、古物営業法に基づく古物販売許可や酒類の通信販売酒類小売免許の取得が必要との見方もある。しかし、管轄官庁ではまだ正式な統一見解を出しておらず、サイト側の責任や義務の範囲が明確になっていない。
- 個人間取引を安全に行うためには、事実上、個人情報を開示することが前提となっている。インターネット上で見知らぬ相手に個人情報を開示することは、取引とは別の危険性が含まれている。しかし、ネットオークションでの安全な取引と、個人情報の開示が表裏一体なのが現在の構造である。
- サイト運営者側のトラブル防止策が不充分なケースもある。ネットオークションをビジネスとして成立させるためには、出品数の豊富さが決め手であり、オークションの参加に関する制限はなるべく少ない方がよい、というサイトも見受けられる。
5. 健全化に向けた問題解決の方向性
今後、CtoC型ネットオークションの拡大のためには、先に挙げたいくつかの問題点を解決し、健全な取引の確保に努める必要があろう。問題解決の方向性として、以下の4点を挙げる。
- サイト運営者の法的枠組みの明確化
- 個人間取引を支援するサービスの拡充
- 利用者への啓発
- 個人情報の保護と安全な個人間取引を両立するシステムの開発
いずれの取り組みも重要であるが、ここでは2、および3について詳細に検討する。
5.1 個人間取引を支援するサービスの拡充
ネットオークションのように、個人間取引で起こる様々なトラブルを避けるため米国では「エスクロー」呼ばれる取引仲介サービスが広く利用されている。エスクロー会社が、出品者と落札者の間に立ち、双方が商品および代金を、スクロー会社を介して取引をする。サービス事業者によって若干方式は異なるが、代金が直接出品者に振り込まれないため、詐欺被害を未然に防ぎ、取引を円滑に行うことができる。
現在日本において、CtoC型オークションに対応したエスクローサービスを提供している事業者は2社だが、最近続々と各企業が参入を発表している(表2)。
エスクロー提供企業 | サービス名 |
---|---|
日本ロジスティクス | リスク・セーバー |
デジタルチェック | オークションチェック |
アイ・エスクロー・ジャパン | I-Escrow |
ヤマト運輸(11月より開始予定) | 宅急便エスクローサービス |
ローソンなどコンビニ5社・スピードグループ(11月より開始予定) | イーディポジット |
日本通運・三和銀行・日本電気情報サービス |
エスクローサービスは、米国では不動産の個人間取引で一般化した制度だが、日本ではこれを定めた法律はまだない。多くの場合代金を一時預かるため、銀行法で定める為替取引に相当すると見ることもできるが、大蔵省や法務省では正式な見解を示していない[3]。そのため、エスクローサービスへの参入を躊躇している会社もあるという。
しかし、エスクローサービスを利用するかどうかは、あくまで利用者の任意であり、手数料についても利用者が負担することになる。このことから、より少ない費用で利用できることが、エスクローの日本での普及の鍵であると考えられる。
5.2 利用者への啓発
ネットオークションを利用する利用者自身のトラブルに対する意識が低いのも、問題の一つである。アンケート結果においても、積極的に自衛策を講じていると思われる人は全体の約4割に留まっている。
今後インターネット利用者の拡大に伴って、インターネット初心者が増えてくることを考えると、利用者の啓発活動をいかに行うかが課題になる。ネットオークションに限らず、オンラインショッピングなどインターネットを利用する際のモラルや危険性についての知識は、今後ますます重要性を増すことは必至であり、一般利用者に対する教育制度や仕組みの整備が急務である。
謝辞
本稿は、財団法人マルチメディア振興センター(FMMC)の委託を受け実施した調査に基づいたものです。本稿の発表にあたり、快く承諾してくださったFMMCに深く感謝いたします。
・参考文献
[1] ネットオークションの利用に関する調査 報告書, (財)マルチメディア振興センター,(2000).
TEL:03-3583-5811 URL: http://www.fmmc.or.jp/
[2] 被害者の会ホームページ, http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/4160/
[3] 日本経済新聞 朝刊: 会社法制(下)仮想銀行の設立,(2000/7/4)
[4] AUCTION USER'S ROOM, http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Bay/2383/
[5] Auction110番, http://auction110.at.infoseek.co.jp/
出典:第5回日本社会情報学会大会