遠隔画像診断の動向と事業機会
3. 遠隔画像診断の実施例
女川テレメディシン研究会における実施状況
女川テレメディシン研究会とは
東北大学病院と女川町立病院の間を光ファイバーネットワークで接続し、技術・運用の両面から各種遠隔医療の有効性を検証するための研究会。
女川テレメディシン研究会の活動内容
放射線科、脳外科、病理部および皮膚科の4診療科で共通の画像伝送インフラを用いて遠隔医療を実現。
病理部 | ・術中迅速病理診断の実現 |
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放射線科 | ・遠隔画像診断システムによるテレカンファレンスの実施 ・日常的な遠隔画像診断の実施(読影依頼と読影レポート送付) |
脳外科 | ・遠隔画像診断システムによる緊急脳外科診断、運用体制の構築 |
皮膚科 | ・皮膚科遠隔画像診断システムの構築とデジタル画像の活用 |
女川遠隔医療システム (システムイメージ)
- 東北大学病院と女川町立病院を384k専用線で結んでいる。
- 女川町立病院と石巻日赤病院、女川町立病院と仙石病院との間をそれぞれINS64で結んでいる。
- 東北大学病院では、病理部に画像診断用PC、放射線科と脳外科にそれぞれ画像診断WSとレポート作成用PC、皮膚科にレポート作成用Mac、画像診断用PCが設置され、それぞれが院内のLANを通じてルーターに接続されている。
- 女川町立病院では、画像診断室に画像診断WSとレポート参照用PC、認証サーバとWWW/画像サーバ、救急処置室には緊急画像送信用PC、外来診療室には皮膚画像入力用PCが設置され、これらは院内LANを通じて東北大学病院向けのルータ、石巻日赤病院と仙石病院に向けたダイアルアップルータに接続されている。またこのLANには、院内HISサーバ、院内DICOMサーバもルータを通じて接続されている。
- 石巻日赤病院と仙石病院には、それぞれ画像参照用PCとモデムが設置されている。
女川テレメディシン研究会の特徴
- 複数の診療科にわたる遠隔医療サービスの同時提供。
- これまでの遠隔医療では病理、放射線といった単独科で実施することが一般的
- 複数の診療科で同時に遠隔医療を提供する野心的実験
- 高精細画像とWWWベースの画像情報システムの併用
- 放射線画像診断を通常の読影と同じ品質で実現しようとした場合、原画像をそのまま伝送・表示できるDICOM画像伝送が必須
- ブラウザソフトはどのパソコンにも入っており、WWWベースの画像情報は利用環境を選ばない
病理における実施内容
- 術中迅速病理診断の実施による手術時間の短縮
- 大学病院・女川町立病院間での技師の教育を目的としたトライアルの開催
放射線科における実施内容
- 女川町立病院で診断の難しい症例を全て大学病院に伝送
- 大学病院側では自由な時間に画像を参照し、診断レポートを作成
- 定期的にテレカンファレンスを実施し、町立病院側の診断技術向上を図る
脳外科における実施内容
緊急脳外科診断運用体制を構築。運用体制は以下の通り。
- 女川町立病院で緊急患者の到着とCT/MRI撮影
- 緊急患者CT/MRI画像が自動的に東北大学病院に転送
- 東北大学病院で高精細画像を元に患者診断と緊急送付の必要性/送付先病院の判断
- 東北大学業印から女川町立病院へ、診断結果の通知と患者移送指示
- 女川町立病院より指定の病院への患者の緊急送付
- 石巻日赤病院または仙石病院では、東北大学病院より電話による患者の容態説明を受けると共に、女川町立病院からのWWW参照画像による者受け入れ準備
皮膚科における実績
35mmフィルムのデジタル化による遠隔画像診断時の画質評価を実施。
遠隔画像診断の実施による効果
術中迅速病理診断システム | ・これまで標本採取→本手術と二度の手術を必要としていた腹部の手術患者が、一度の開腹手術で済むようになった |
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放射線画像診断システム | ・難しい症例に対する診断品質の向上が得られた ・女川の医師、技師のレベルが向上した |
脳外科緊急患者搬送システム | ・緊急患者が実際に治療を受けられるまでの時間が、本システムがない場合と比較して30分〜1時間半短縮できる |
皮膚科画像診断システム | ・週一度の皮膚外来のみでなく、常時大学の専門医による診断やフォローアップが実現 |
効果の具体例
- 病理
- 手術中に摘出範囲の決定がおこなえるため、手術回数、入院期間の短縮など大きなメリットが得られる。
- 脳外科緊急
- 専門医による正確な判断が得られるとともに、手術開始までの時間を大幅に短縮できるため、患者のリスクを大幅に低減することができる。
医師による有効性の評価
調査実施 H11.3.10〜23
- 遠隔医療の有効性は強く支持されている
- 研究会メンバーは今後も遠隔医療システムを活用する意向が強い
- コストメリットについては賛否がある
効果まとめ
- 患者の経済的・肉体的・精神的負担の軽減
- 再手術および入院期間の長期化の回避
- 女川町立病院での質の高い医療の提供
- 地元病院で専門医の医療が受けられる
- 医師の生涯教育
- スタッフのスキル向上
研究会による提言
- 早期の保険診療化
- 遠隔医療の導入による費用対効果を明らかにし、厚生省や関係機関への保険診療化の働きかけをおこなう
- 遠隔医療用機器、ソフトウエアに関する規格制定の推進
- 国や業界団体などに働きかけ、遠隔医療に関わるハードおよびソフトウエアの規格制定を速やかに進める (DICOMの普及促進を含む)
- 医療情報のセキュリティルールの確立
- 病院間で患者情報のやりとりをおこなう際の情報保護ルール、技術的方法論を取りまとめ、医療現場におけるコンセンサスを作り上げる
- 医療従事者のコンセンサス形成促進
- 各地で別個におこなわれている遠隔医療の成果を集約し、共通のガイドラインを作成するなどの取り組みをおこなう
- 国民へのテレメディシンの周知
- 遠隔医療がもたらすメリット、実現コスト等に関する情報を広く収集・公開し、国民に対する啓蒙活動をおこなう